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本日のお題は「あーそーぼー!」でございます。漢字で書きますと「遊ぼー!」となります。「あーそーぼー!」は友達の家の玄関先で言う言葉でございます。そして大きな声で言わなければなりません。電話も普及しておらない時代でございます、チャイムなども一般大衆家庭にはなかった頃の言葉でございます。チャイムの代わりに玄関先で「あーそーぼー!」と家の中まで聞こえるくらい大きな声で言わないと家の方は来客に気づいて下さらなかった時代のお話でございます。
昭和の時代、子供達は学校から帰ると「ただいまー!」と玄関の扉が開くか開かないうちに挨拶を済ませ、少しの隙間からカバンやランドセルを「玄関」兼「廊下」となっている床に放り投げ、扉が閉まるか閉まらないうちに「いってきまーす!」といって家を飛び出すのでございました。昭和の家は現在のように鍵などかけておりません。また、帰ってきたら手を洗って、うがいをして・・おやつを食べてなどという家庭は、ピアノのある家庭だけの、つまり小生にとって別の世界のお話でございました。テレビジョンが無い家庭も多くあった時代でございます。テレビゲームなど発明すらされてなく、多くの昭和の子供達にとって、学校が終わって外で遊ぶという事が唯一の楽しみでございました。
さて、ランドセルを放り投げた後でございます。誰と遊ぼうか?と昭和の少年は初めて考えるのでございました。時間がもったいないので考えながら走るのでございました。そうすると、やはり走りながら考えている友人と出くわすのでございます。2人に会話は必要ございません。あてもないのに同じ方向に走り出すのでございます。そして、気がつくと走っている仲間はだいたい3人から5人くらいに増えているのでございます。そこで、初めてあてもないマラソンは一時休止となります。「おい、何処に行く?」「今日は何をする?」・・しかし、決まらない時は誰かが「○○の家へ遊びに行こーぜ!」と言い出すのでございました。それを聞いて違う誰かが「そうだな。○○の家には漫画本がいっぱいあるんだぜ!」とよそ様の家の漫画本を得意になって自慢します。そして本日の行き先が決定するのでございます。一時休止しておりましたマラソンは、また再開されるのでございます。
しかし、この仲間の中にお金持ちのお坊ちゃまがいらしたら、とても大変でございました。何故なら、お坊ちゃまはたいがい自転車に乗っておられます。後から続く少年達はさっきより早いマラソンを強いられるのでございます。
やっと目的の漫画本のたくさんある家につくと、全員で鍵のかかってない玄関をガラガラと開けて「あーそーぼー!」というのでございます。何故、この家の少年は他の昭和の少年と同じくマラソンをしないのか・・。それは本が好きだからでございます。少年は本が好きだから、本を読む為に家にいらっしゃるのでございます。しかし、少年にも断る権利があります。「あーとーで!」と(漢字で書きますと「後で!」となります)。でも、読書を愛する心優しい少年は、たいがい「おーいーで!」と私達を迎えてくださるのでございます。やった!と顔を見合わせ、礼儀を知らないマラソン少年達は、玄関に靴を脱ぎ散らかし、汚い素足で「バタバタ」と上がり込んで行くのでございます。心優しい少年は、いきなりの古汚い来客に文句も言えず、大事なコレクションを汚い手であさられるのでございます。
ある時、小生はいつものようにマラソンをしておりました。しかし、この日はいくら走っても孤独なマラソンが続くのでございました。そんな時、ガキ大将的ないわゆる「やんちゃ」な上級生と鉢合わせになりました。そのガキ大将も走っておりました。しかも油汗をかきながら青い顔をして走っておりました。小生はそのガキ大将に「オス!あそばないかぁ!」と言いました。ガキ大将は「うん、いいよ!」と答えて一緒に走りながらガキ大将の家に行きました。しかし、家につくとガキ大将は「いいか!俺がよしというまでここで待ってろ!それまで扉を開けるなよ!絶対だぞ!」と命令して、小生を玄関前に立たせて自分は家の中に入っていってしまいました。ガラガラっと扉を閉めて。
最初は小生も黙って待っておりましたが1分が経ち、2分経ち・・5分経った頃にはこらえ性の無い小生は我慢の限界に達しておりました。しかし、いくら何でも勝手に上級生の家に入る訳にはいきません。「忘れられたのかな?」という不安もよぎっております。
「あーそーぼー!」小生は腹の底から大きな声で存在をアピールしたのでございました。その時でございます。ドドドッ!とイノシシが走るような大きな音が玄関の中から聞こえてきたのでございます。好奇心旺盛な小生は、いつの間にかガラガラッと扉を開けておりました。そしたらそこには、「何であけるんだよぉー」と、下半身「裸」のガキ大将が走るのを止めて泣き崩れる姿がございました。
少年は悪いものを見た!と、とっさに感じてその場を逃げ出したのでございます。今度は帰りのマラソンでございます。しかも目的もあります。自分の家に逃げ帰るのでございます。そして、何故かお金持ちのお坊ちゃまと一緒のときより早く走ることができたのでございます。
走りながら小生は考えたのでございます。「あれは何だったのか?」「何故、ガキ大将はパンツをはいていなかったのか?」「長い間待たされた理由は?」・・。
様々な疑問をつなげていくと答えが見つかったのでございます。ガキ大将は家に帰りトイレに行ったのでございました。ガキ大将の家の構造は、玄関をはさんで左の奥に居間がございました。そして右手前にトイレがあったのでございます。居間からトイレに行くには、必ず「玄関」兼「廊下」を通らなければなりません。ガキ大将は、おそらくパンツを居間で脱いでからトイレに行く習慣があったのだと思います。そして小生を5分ほど待たせて、トイレでの大仕事が終わりパンツを履きに居間へ、そーっと戻ろうとしたときに、シビレをきらした小生の「あーそーぼー!」という大きな声が、下半身「裸」のガキ大将に聞こえたのです。ガキ大将はびっくりして走り出しました、イノシシのように。その大きな音を聞いた小生は、あまりの音の大きさに驚き、約束など忘れて禁断の扉を開けてしまうのでございます。
それから、ガキ大将はいじめっ子モードに入っているときでも、私にはいつも優しく接してくれました。勿論2人ともあのときの話など一切交わしたことなどありません。
小生は今、数十年という長い年月に渡り、守られ続けた暗黙の約束を先輩の了解無しに破ってしましました。しかもいきなり全国に(汗)。しかし、懐かしさが込上げてくると同時に、何故か晴れ晴れしく感じております。
さて今日はピアノのあるご家庭で飲まれていたであろう、エゲレスのスコッチウヰスキー「バランタイン」を飲みながら原稿を書いております。氷の入ったグラスを傾けながら様々考えております。何故、昭和の家は鍵をかけなかったのでございましょうか。
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